2006年10月23日

医療崩壊A〜医療崩壊はなぜ崩壊が崩壊を呼ぶのか??

こんばんは。

早速多くのコメントをありがとうございます。
熱心に調べてくださりうれしいです。
この医療崩壊シリーズではなるべく中立的な視点で経済学的な観点から医療崩壊を考察してみたいと思います。

第二回では、なぜ医療崩壊ではポジティブフィードバックが起きやすいのかを考察してみます。

まず医療崩壊のポジティブフィードバックについて考えてみます。
トピックスなので産科を例に考えます。

まず前提として産科は医者の中でもかなり特殊で厳しい分野であり、限られた専門家しかできない領域です。

医師国家試験でも例えば小児科は内科の知識がかなり役に立つのですが、産科についてはかなり別系統の知識として覚えねばなりません。
現在では批判が強くなりましたが、ローテーションが始まる前には研修医がこっそり(おおっぴらに?)内科病院で当直にはいっていたりしたことがありました。しかし、そんな時代でも産科当直に産科以外の研修医が一人当直することは決してありませんでした。医師なら誰でも産科業務の特殊性、専門性、急変リスク、危険性、緊急性について認識しています。
(テレビでコメントしているタレント女医には怪しい人もいるようですが・・・)

これが何を意味するかというと、地域の産科診療はもっぱら産科専門医という少数のプロ集団に依存していることを意味します。
特に夜間救急や夜間分娩に対応している病院や、ハイリスク妊娠(妊娠中毒、前置胎盤、胎盤剥離、糖尿病・・・)を扱っている少数の病院は数少ない勤務医が馬車馬のように労働することでかろうじて維持されています。

仮に人口20万の町に4つしかこうした夜間救急に対応できる産科病院がないとしましょう。(これでも実情より多かったりします。)
過酷な勤務や訴訟リスク、患者やマスコミからの攻撃に耐えかねて、あるいは単に過労で倒れてそのうちのひとつの病院で産科医がみなやめて、婦人科開業したり医者をやめてしまったとします。

残りの3つの病院はさらに悲惨です、4つあった時代でさえ過酷だったのに、今度は3つの病院で支えなくてはなりません!!これらの病院の医師はさらに馬車馬のように働きますが、とても人手が足りません。
結果として今回の奈良の事件のようにまったく緊急患者を受け入れられなくなってしまいます。(マスコミはこれをたらい回しと呼びますが、さすがに悪意的な言い方といわざるを得ません。)

そうこうしているうちに、残りの3つの病院のうちひとつの病院でまた産科医がいなくなりました。残りの二つの病院はもう戦場のように忙しくなります。そろそろ妊婦が隣町の病院に運ばれます。その結果隣町の病院もパンクし、産科医がいなくなり・・・、とドミノ倒しのように医療機関がパンクしていきます。

おおよそこれが医療崩壊の流れです。これが某巨大掲示板で「逃散」と呼ばれる現象で、いま日本中の産科、救急などで加速度的に起こっています。

ところで私がこの現象を金融機関の友人に話すと非常に不思議そうに以下のいくつかの質問をされました。

・そこまで需要に対して産科医、特に夜間診療の供給が足りないなら産科医の待遇をあげればいいのではないか??

・産科医の労働条件がそれほど過酷なら複数雇用して負担を分担すればいいのではないか??まさか病院の産科医が3倍に増えても負担が減らないことはないだろうし、病院としても産科がなくなるよりはその方が経営的にもいいのではないか??

・訴訟リスクの上昇が問題なら保険もあるし、訴訟リスクをプレミアムとして乗っけた価格で医療を提供すればいいのではないか??

私はこの指摘を受けたときに非常に驚いたのですが、よく考えると日ごろ企業価値や収益性を分析するときには当然こうした経済学的な視点で見ていることに気づきました。


このブログを見ておられる投資家の方はあるいは同じように感じられるのではないでしょうか??

ところが残念なことに医療や病院においては上記の疑問点に沿った解決策は事実上不可能といっていいほど困難です。だから医療崩壊が止まらないのですが・・・。

次回はなぜ、こうした経済学的解決が医療において困難であるかを考察してみたいと思います。
posted by たけ先生 at 20:24| Comment(12) | TrackBack(1) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんは。
保険関係のリサーチの仕事をしている者です。

医療崩壊。かなり深刻な問題ですね。
今後の日本の将来を憂える問題として感じています。

医療に関するもう一つの問題として、看護学校の入試倍率の低下(看護学生の学力低下)があると思いますが、現場はいかがですか。

また、これは医療だけではなく、学校現場でも起こっているようです。
それは、小学校教員採用試験の低倍率化の問題です。東京都などでは最近毎年100人以上の小学校教員が退職しているようです。その多くは50歳代と20歳代です。そのため採用試験倍率が2〜3倍になっているようで、これは東京都に限らず首都圏でもどこも同じ状況のようです。来年から団塊の世代が大量退職するため、この傾向はしばらく続くと思います。

さらに、介護福祉士などを養成する短大などでは定員割れを起こしているところが多いようです。

産科、小児科、看護士、小学校教員、福祉関連。

これらの分野を志向する人々が急激に減少しています。人の命、幼児、ハンディキャップを持つ人々を守る職業を志向する人々が減少している。
これは日本社会の基礎を揺るがす大きな地殻変動が起きていると思わざるを得ません。

上記の仕事に共通することは労働条件が過酷であるということです。そして失敗したときの社会からの非常に厳しい目。これではそれらの分野を志向する人が減ってもしょうがないでしょう。
憂慮すべき事態だと思っています。
Posted by AXA at 2006年10月23日 21:40
こんにちは。
最近ジョージソロスの「グローバル資本主義の危機」と言う本を読みました。10年前に書かれた、難解な本でしたが、「本来市場価値で測ってはならないものを金銭価値に置き換えてゆくと社会は崩壊する」と言うことを書いた本だと認識しました。
人体という未知の領域と戦い、人生と言う哲学的な領域とも向き合う必要のある医師という職業は、市場主義とは相容れない様な気がします。
Posted by おしお at 2006年10月23日 22:05
こんばんは。
医師、産科医が不足していると近年大きく問題になってきていますが、全国均一に不足しているわけではなく、地域間でその差が激しくなっていると感じます。医大入学者の大半を東京大阪の進学校出身者が占める近年、昔は過疎地のみが直面していた「医者不足」の裾野も地方都市まで広がっているように感じます。不足している地域にもビジネスチャンスはありそうに思うのですが、必要の無い過度なゲインを求めずに、リスクを避け快適な暮らしを取るという選択は理解できます。
Posted by ぴの at 2006年10月23日 22:25
日本の医療は事実上公定価格ですから、需要が増えたからといって価格は上昇しないわけで、いやそれどころか「医療費抑制」の掛け声のもと価格は逆に下がるわけで、医師の待遇は十分には改善せず、従って医師も集まらず、あなたの友人の言うような展開にはならないんですよね。市場原理が機能していないがゆえの矛盾であるわけですが、財政再建キャンペーンによる医療費抑制政策が矛盾を拡大させていると思いますね。
Posted by dell at 2006年10月23日 22:25
熱心なコメントありがとうございます。
dellさん、さすがの知性です。次回はその問題について語りますね、

ぴのさん、確かに地域偏在は有るのですが、実は東京も神奈川も産科は医療崩壊しています。
そもそも大淀って別に田舎じゃないですよね??
大阪まで20分ですし。偏在だけが問題というのは厚生労働省の責任逃れと思っておけばOKです。
ビジネスチャンスはありません。なぜないかは次回解説します。ゲインが得られないので、リスクをとる人もいなくなる、のが隠された真実です。

おしおさん、AXAさん。すばらしいお言葉ありがとうございます。バフェットも類似のことを言っていました。大資本家意識で医療費をGNPに連動させろといっていた奥田前トヨタ会長に聞かせてやりたいですね。
Posted by たけ先生 at 2006年10月23日 22:40
アメリカの場合:資本主義的
 基本的に民間の医療保険に加入
 満足のいく医療を望むのであれば、保険料は月10-20万円
 保険料が高いので保険に加入していない人が多い
 破産のうち、かなりの割合は医療費によるもの
 金持ちでないと、満足な治療を受けられない
 破産するのは個人

日本の場合:社会主義的
 国民皆保険制度
 健康保険料はアメリカに比べて安い
 医学的に無駄な治療行為が行われやすい
 医療従事者の給与が市場的価値によって決まらず、市場的価値よりかなり低く見積もられる傾向がある
 破産するのは国家

国民皆保険制度を維持しつつ、デメリットをどのように消していくかということがテーマなのであって、アメリカ型の医療制度にすることを目指すべきではないことを銘記しておかなければなりません。国民皆保険制度がどれほどありがたい制度であるかということを国民が認識し、この制度を守るためには国民自身の努力と知恵が必要であるという意識を共有しなければならないと思います。例えば、医学的に無駄な延命治療を避けるための尊厳死の法制化などの議論を深める必要があると思います。


 
Posted by PALCOM at 2006年10月24日 13:04
偶然に見つけたんで
http://q.hatena.ne.jp/1150796889
Posted by うんと at 2006年10月24日 18:25
日本は平均寿命が世界一ですからね、無駄な延命もありますが人命がもっとも大切と考えるともっとも進んでいる文明と考えられるんではないか?

http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life02/life-3.html

このメリットはなくさないように大切にしなければならないと思いますね。

Posted by うんと at 2006年10月24日 23:02
似たような問題に水問題があるんで
http://www.cla.kobe-u.ac.jp/kusccs/essay/2003asano.htm
Posted by うんと at 2006年10月25日 04:50
こんにちは。
今年産まれた長女がNICUに入院していたことがあったので、今回の事例は他人事ではありませんでした。コメントが長くなってしまったためTBさせていただいたので、お時間のあるときに御覧ください。
Posted by 空色 at 2006年10月25日 15:59
個人的にはね、予防医学に力を入れるべきだとは思ってますがね
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%88%E9%98%B2%E5%8C%BB%E5%AD%A6
病気になると、治療費がかかるんで
医者の仕事は究極的には病気をなくすことだと思ってますがね。
例えば、タバコなんてタバコ税より、タバコによりかかった病気の治療費のほうがはるかに高いんじゃないんですか?
ほかにもいろいろあるんですが長くなるんで・・・
Posted by うんと at 2006年10月26日 01:07
空色さん。
コメントありがとうございます。
本当に温かいお言葉ありがとうございます。
同僚医師も「こういう風に考えてくれる一般人もいるんだ。」と喜んでおりました。

うんとさん、「予防」できる病気はごく生活習慣病や感染症などごく一部です。医療費圧迫の直接原因である高齢者については早かれ遅かれ病気になります。
「予防」のためのリハビリプログラム推進で転倒した老人が相次ぎ緊急通達が回った例もあるくらいです。
「予防」で医療費が安くなるというのは厚生労働省の防衛宣伝である可能性がかなりあります。

タバコについては賛成です。喫煙の禁止ないしタバコ税の大幅値上げは数少ない実行可能な「予防」であり、おそらく今現在行われているすべての「予防」プログラム以上に健康増進、医療費削減効果を見込めると思います。
Posted by たけ先生 at 2006年10月26日 16:56
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Tracked: 2006-10-25 15:33
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