こんにちは。
アクセスがここ最近急増しているので驚いています。
医療問題にはみなさん関心があられるようなので本当にうれしいです。
当ブログはもともと株式投資ブログですし、今後も経済学的に医療問題を考察していきたいと思います。
また視点についてはなるべく中立的な立場で記載するように心がけていきたいと思っております。
前回、医療崩壊問題を概観した後金融機関の友人からの疑問点を紹介しました。
〜以下引用〜
・そこまで需要に対して産科医、特に夜間診療の供給が足りないなら産科医の待遇をあげればいいのではないか??
・産科医の労働条件がそれほど過酷なら複数雇用して負担を分担すればいいのではないか??まさか病院の産科医が3倍に増えても負担が減らないことはないだろうし、病院としても産科がなくなるよりはその方が経営的にもいいのではないか??
・訴訟リスクの上昇が問題なら保険もあるし、訴訟リスクをプレミアムとして乗っけた価格で医療を提供すればいいのではないか??
今回はこの問題について考えてみたいと思います。
あまり知られていないことですが、医師が提供する診療の大部分を占める保険診療では病院側に価格決定権はありません。あらかじめ国により
サービスに対する価格が決定されています。たとえばこの点滴をしたら何円、この薬を使ったら何円という感じですね。
そしてその決まった価格のうち原則3割を患者さん、原則7割を国の保険料と税金から負担しています。
価格決定権がないということは一般企業でいうとどれほど品薄な製品であっても、価格を値上げすることは許されないということです。
端的にいえばこれが友人の質問に対する答えのすべてです。
投資家的センスのある当ブログの読者さんのためにファンダメンタル分析風に記載してみます。
・・・株式会社「iryouhi」では、極めて高度な技術と専門化集団の労働集約、さらに最新の設備が必要な生活必需品「sakugen」を生産しています。
「sakugen」は生活必需品であり、高度に公益性が高い商品であるため、あまねくすべての家庭にいきわたるように価格は一律500円と法律で決められています。ところが近年「sakugen」製品電気回路の不具合によるとされる(真偽は不明)爆発事故が起こり、マスコミは猛烈に「iryouhi」をバッシングしました。安全確保のため製造コストが急増し、「sakugen」単体では赤字の製品となってしまいました。
「iryouhi」経営陣は危機感を持ちましたが、価格転嫁は許されていません。どれほど需給が逼迫していても生産コストが上昇しても価格転嫁は全くできません。
そのため従業員を増員できないし、従業員給与もあげられません。
それでも消費者からの減らないニーズとどこまでも増大する品質改善要求に対応すべく、「iryouhi」経営陣は高度な技術を持った従業員たちと工場にフル稼働を命じました。その結果、工場設備は劣化し、現場の高度技術従業員たちも過労と睡眠不足にさらされ、どんどん疲弊していきました。
また消費者による品質改善要求はますます激しくなり、品質に不満のある消費者は「iryouhi」あいてに損害賠償請求を次々と起こし、一部は会社が敗訴するようになりました。さらに警察も「sakugen」の爆発事故に対し製造責任を問い、不眠不休で働いていた工場の責任者を逮捕しました。(なお、事故に製造過失があったかどうかについては現在刑事裁判で争われています。)
こうした環境に耐えかねた「sakugen」工場の高度技術者は次々と工場から去っていきました。その結果、工場は次々に閉鎖し、「sakugen」の生産性は絶望的に低下し、消費者の需要を満たすのに必要な量を製造することができなくなりました。
深刻な「sakugen」不足は社会問題になりましたが、「iryouhi」経営陣は生産を中止することも値上げすることも増産することもできません。
現在「iryouhi」経営陣は残った従業員にさらに過酷な労働とノルマを課しています。
一方、、「sakugen」不足と品質低下の犯人探しにやっきになったマスコミは工場を辞めた従業員に対し、「公共のために奉仕する気持ちが足りない!!専門技術を持ちながら自分勝手に工場を辞めるとは何事だ!!仕事が大変なのはお前だけではない!!甘えるな!!工場に入った原点を思い出せ!!」とさらに猛烈なバッシングをしました。
こうした世論を受けて経営陣は「sakugen」工場からの離職禁止および強制労働を自社の高度技術者に課すための法律整備を国に求めています。・・・
こうしてみると医療崩壊がイメージしやすいのではないかと思います。
同時にあれほど医師が過酷な労働を強いられている理由は単純に「人をたくさん雇えるだけの価格がついていないから。」であることが明白であると思います。
実は以上の話は産科に関しては部分的に当てはまらない部分があります。産科はちょっと独特な混合診療で異常分娩は保険診療である反面、通常の出産は自費だからです。
しかし、これについてもどうやら価格決定には上方硬直性があるようです。これだけ産科医が不足しているにもかかわらず全く出産費用は上昇していません。
おそらくこうした上方硬直性は公立病院など公的病院が出産価格を上昇させられないところに起因していると思われます。つまり、現状では「うちの病院だけ値段を上げるくらいなら産科がつぶれるほうがマシ!」という行動を取っている病院が多いと思われます。
ではこの問題はどう解決したらいいのでしょうか??
方法としてはいくつか考えられます。
(1)サービスに対するニーズがあるのに不当な価格を強制していることが医療崩壊を招いている。したがって原則として混合診療を解禁し、価格決定をマーケット、すなわち医療機関と患者に任せる。(国民皆保険を廃止するというのも選択肢としてはありうる)株式会社による病院経営、民間保険による自費診療カバーをあわせて解禁し、医療法による病床規制も撤廃する→(自由主義路線、経団連、規制改革会議、日経新聞などの主張寄り)
(2)価格が品質(要求されるサービスの質)に対して不当に安いことが原因と考えられる。公的保険でのカバーを維持しつつ価格を上昇させる。すなわち診療報酬を引き上げ、これに伴い公的医療費支出を引き上げる→(福祉国家路線、医師会、勤務医の主張寄り)
(3)価格を引き上げないのにサービスに対する要求が上昇していることが問題→価格を維持しつつサービスの質を引き下げる。具体的にはアクセス、医療内容の低下、産科や小児救急自体の閉鎖など。
現状の医療崩壊は(1)も(2)も取れないために(3)が進みつつある状況です。
次回は(1)の制度を取るとどうなるかについて中立的な視点から考えてみたいと思います。